歯科技工の将来

「歯科技工士」
むし歯治療における歯科処置というのは、皆さん削って詰めるというイメージが大きいと思います。
実際、むし歯が出来た場合、現状ではむし歯を削り、そこにコンポジットレジンという合成樹脂を詰める、もしくはインレーという銀色の金属製の詰め物をするというのが一般的です。もっとも、これは小さなむし歯の場合でして、大きなむし歯になりますと、神経をとったり、クラウンやブリッジと歯科医師がよんでいる大きな銀歯(最近では保険診療でも適応されているのは一部だけですが、白い被せ物を入れることが出来る場合もありますので、必ずしも銀歯とは限りませんが。)を入れたり、よほどむし歯大きければ抜歯したりすることになります。
この時、歯科医師は歯型をとりますが、その歯型から銀歯を作ってくれるのが歯科技工士と呼ばれる国家資格を持つ医療従事者となります。歯科技工士は、歯科医師にとって歯科衛生士に匹敵する頼りになる、なおかつ欠くべからざる重要なパートナーです。どちらが欠いても治療は出来ず、正に車の両輪の関係といえるでしょう。ところが、その重要なキーマンである歯科技工士に、患者さん自身が接する機会がそうそうないのが残念なところです。

「歯科技工の現状」
むし歯を削り歯型をとる、もしくは入れ歯を作る為に歯型をとるなど、歯科治療には歯型をとると言う行為が欠かせません。歯型をとらない日はないと言っても過言ではないくらいです。この”歯型をとる”という行為を、我々歯科医療従事者は、”印象採得”といいます。そして、その歯型に石膏という、水を入れると固まるセメントみたいなものを流し込んで出来上がるものを、”模型”といいます。この模型を、歯科技工士に渡し、銀歯や入れ歯を作ってもらいます。歯科医師にも出来なくはないですが、そこは餅は餅屋。分業体制にあります。
歯科技工士は、この歯の模型にワックスアップという銀歯の鋳型の元になるものを作ったり、入れ歯の基礎を作ったりと様々な工程を踏んで歯科技工物を作っていきます。
ところが、この作業、何十年も前から一つ一つが手作業のままなのです。患者さん自身に合うようにそれぞれオーダーメードで作らなければならないからです。むし歯の形態が各人異なる、入れ歯の形がそれぞれ違う、顎の大きさや歯の形が千差万別なのだから仕方がないのですが、工場で大量生産される工業製品とは異なり、何十年も変わらない伝統工芸の様な世界だったのです。
ですから、仕上がりは歯科医師の腕もありますが、歯科技工士の腕に依存するところがとても大きい。正しく匠のわざというものです。歯科医師にとって、自分に合う歯科技工士を見つけるのは、大変なうえ、治療の成否に大きく影響するファクターなのです。

「新しい技術」
ところが、ここ数年、デジタル技術の進歩が歯科技工業界にも押し寄せてきました。2014年から保険診療に導入されたCAD/CAM冠というものがあります。これは、従来の保険診療では銀歯が入るところに、現在は適応部位がまだ限定されていますが、白い被せを入れられるというものです。
CAD/CAM冠自体は以前から存在していましたが、これが保険診療に導入されたということは、歯科技工界に非常に大きな影響を与えるものと思われます。現在、我が国において歯科技工士に発注される歯科技工物の約90%が保険診療に収載された歯科技工物です。言い方を変えれば、従来のCAD/CAM冠は残りの約10%の一部でしかなかったわけです。それが、保険技工に組み込まれたのですから、今後は徐々にでしょうが適応部位が拡大していくことが予想されるわけで、新たな流れをうんでいくことでしょう。

「デジタル革命」
CAD/CAM冠という新しいタイプの被せ物の話をしましたが、その他にも新しい技術が次々と開発されています。デジタル革命の波が歯科技工業界にも押し寄せているのです。
デジタル化が始まっているのは、歯科技工物の製作工程だけではありません。従来の歯型をとる工程にも、デジタルスキャナーで行なう光学印象などの技術革新が起きています。それだけでなく、顔貌の写真や動画、CT画像を組み合わせて、デジタルデータとして患者さんの情報を取得し、歯科技工物の製作を行なう方法が既に海外では開発されています。私見ですが、将来は歯科医院で得られたデジタルデータを歯科技工所に送信して歯科技工物の製作依頼を行なう様になるのかもしれません。
また、製作する側である歯科技工所では、3Dプリンターによる歯科技工物の製作が行なわれるでしょう。これも海外ですが、総入れ歯も3Dプリンターで製作できる装置が開発されています。3Dプリンターはプラスチック製のイメージですが、金属加工もできるタイプもありますので、被せ物全般が3Dプリンターでの製作と化していくことも夢ではないでしょう。
仮に製作された歯科技工物がドローンで配送されることになれば、歯科医師と歯科技工士が直接対面してやり取りすることもなくなるかもしれません。

「歯科技工界のトレンド」
世界の歯科技工業界のトレンドは、デジタル化にあることは論を俟たないと思います。従来の歯科技工士による一つ一つ手作業のいわば匠の世界から、デジタルが融合された新しい段階へと進んでいます。
将来歯科技工所のコンセプトモデルは、ハイテク工場のクリーンルームの様相を呈しています。そこでは、歯科技工士がコンピュータのモニターを見て、製作工程を管理しています。まるで、温度管理された静かで清潔なコンピュータセンターのような環境でした。
このように今までの歯科技工士が騒音と粉じんの発生する中で歯科技巧に勤しんでいた歯科技工所のイメージも一新されることでしょう。

「おわりに」
日本の場合、薬事法の壁がありますので、すぐに海外で生まれた新製品が導入されることはないでしょう。けれども、歯科業界も日々進歩しています。海外からの情報が入ってくるスピードは日増しに速くなり、我々に変革を要求しています。患者さんにとって大きな負担である歯型をとることや、石膏で歯の模型を作る、入れ歯を削るなんて作業は過去の遺物となるのも、そう遠い未来の話ではないのかもしれません。
今の子供達が成人した頃、「まだ、そんな古くさいことしているの?そんなの教科書にしか載っていないよ。」なんてことを言われる日が来るのでしょうか。

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ